タローがほえるので

 ふしぎな岩は、あまり、タローがほえるので、何ごとがあるのかと、「タロー君、いったい、この真夜中に、どうしたというンだい?」と、声をかけました。 タローはびっくりしたようすで、ふっと、ふしぎな岩をながめました。「私はここのとんび岩だよ。わかるかね?」と、たずねますと、タローは急にしっぽをきつく振りたてて、「ああ、とんび岩のおじさんかね。私はまたテングさまが声をかけたのかと思ったよ。」と、なつかしそうに、岩の方へよって来ました。「どうして、ここへ来たのかね?」と、もう一度、とんび岩がたずねました。「月のいい晩はここから海が見えるンだよ。急にね、人間に飼われているのがいやになって逃げだしたくなったンだ。だから、夜になると脚をじょうぶにして、あの海の向こうの方へ逃げ出して行ってみたいと思って、今夜も森の方へ出て来てみたのさ……」と、いいました。「ああ、そんなことかね。おれもね、実は、ここに長いことこうしているのにあきあきしちまって、なんとかいいところへ行ってみたいものだと思っているのさ……」とためいきまじりにいうのです。「ほんとうにどうして、ぼくたちは自由に方々を、人間みたいに行きたいところへ行けないのだろう……。こうしているのがつまらなくなっちまった……」と、タローは、ウオー、ウオーと、谷間へ向かってほえたてるのです。「それでも、お前さんは、まだ、私より自由だもの、どこへでも走って行けるだけいいじゃアないか……この谷間の底には、夜になると、ああして美しい燈《ひ》がついているが、あそこにはいったい何があるンだね? いっぺん、あそこへ行って、私もにぎやかなところで、せいせいしてくらしてみたいものだな。」と、岩がいうのです。

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